ヘレン・マクロイ「殺す者と殺される者」



殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)


遺産を相続し、不慮の事故から回復したのを契機に、職を辞して亡母の故郷クリアウォーターへと移住したハリー・ディーン。人妻となった想い人と再会し、新生活を始めた彼の身辺で、異変が続発する。消えた運転免許証、差出人不明の手紙、謎の徘徊者・・・そしてついには、痛ましい事件が───。この町で、何が起きているのか?マクロイが持てる技巧を総動員して著した、珠玉の逸品。



まくろい あたま おかしい


いやまぁ道中のサスペンス性や衝撃の真相、タイトルの真の意味と漂う哀切感など色々踏まえるとさすがマクロイ、こいつぁ傑作やで!という感想になって皆読むがよいと結論づくのですが、その、ええと、真相そのものはどーみてもアレでありまして、ワシのよーなボンクラミステリ読みにとってはもうご褒美としか言いようがないシロモノであり、まぁその、一言で言うと、「さすがマクロイ、こいつぁ傑作やで!」ということになったのでありました。つーかこれすげぇよ。そりゃ今となっては色々と同ネタ多数だし、また割とわかりやすく伏線張っているのでネタも予想しやすいけど、やっぱ衝撃っちゃー衝撃よこれ。この「おいまさか」「ひょっとしてアレか?」という読ンでる最中のドキドキ感は半端ねぇぜ。しかも予想の上を行きやがるツイストっぷりでぐうの音もでねぇし。


というわけで素晴らしいので皆読むといいと思うよ!

ロン・カリー・ジュニア「神は死んだ」



神は死んだ (エクス・リブリス)

神は死んだ (エクス・リブリス)



「神の肉」を食べたために、知性が高度に発達した犬へのインタビューをはじめ、「神の不在」がもたらす「ねじれ」の諸相に、斬新な語りとポップな感性で切り込む。全米で話題騒然の新人による、異色の9篇を収めた連作短篇集。“ニューヨーク公立図書館若獅子賞”受賞作品。



最初の話でいきなり神様が死ンでしまう(文字通り)という衝撃的な展開から始まる、神が死ンだ世界で展開される色々なお話の物語。神が死ンでしまったことにより聖職者は絶望し自殺に走り、希望のない若者たちはお互い銃を突きつけ合ってアグレッシブな自殺を試み、神の肉を食べた犬は人語を解する高次の生き物になり、子供を崇拝する新たな宗教が生まれたり、ポストモダン人類学と進化人類学というよくわからぬ人類学の戦争が発生したりと、キリスト教圏ならではの奇想満載なお話でありました。


結構ヘビーなテーマだと思うけど、ユーモアでかなり覆っているのでさらっと楽しめる作品だと思います。宗教に馴染みのない人間だとピンとこないかもしれないけど、そーゆーの差し引いても楽しいと思うのでこれはオススメですよン。

エリック・キース「ムーンズエンド荘の殺人」



ムーンズエンド荘の殺人 (創元推理文庫)

ムーンズエンド荘の殺人 (創元推理文庫)


探偵学校の卒業生のもとに、校長の別荘での同窓会の案内状が届いた。吊橋でのみ外界とつながる会場にたどり着いた彼らが発見したのは、意外な人物の死体。さらに、吊橋が爆破されて孤立してしまった彼らを、不気味な殺人予告の手紙が待ち受けていた──。密室などの不可能状況で殺されていく卒業生たち、錯綜する過去と現在の事件の秘密。雪の山荘版『そして誰もいなくなった』!



めっちゃ王道。


そして誰もいなくなった」の本歌取りとも言うべき作品なのだけど、まさか近年のアメリカミステリシーンからこンなガチの本格ミステリが出てくるとは。コッテコテもコッテコテのクローズドサークルものでびっくりしたよ。そりゃ序盤で一気に登場するキャラとその背景を把握するのにちと戸惑うとか、真相解明部分がやや冗長感あるとかその他いくつかケチは付けられるけど、伏線もきっちり張っているし犯人の正体には普通に「おっ」と思ったのでワシはこれを全て愛するものです。序盤こそちと入りにくいけど、中盤からはグッと引き込まれるぜ。


あとこのご時世にこの内容で勝負しようと思った作者のこの姿勢に何だろう、そう、バカ魂を感じる(お前はそればっかやな)

フランク・ティリエ「シンドロームE」(上下)



シンドロームE(上) (ハヤカワ文庫NV)

シンドロームE(上) (ハヤカワ文庫NV)



シンドロームE(下) (ハヤカワ文庫NV)

シンドロームE(下) (ハヤカワ文庫NV)


急死した収集家のコレクションに眠っていた謎の短篇映画。奇怪な描写が続くその映画を見たコレクターは、映画が終わる前に失明してしまった。映画の秘密を探るリューシー警部補。だがその行く手には、何者かが立ちはだかる。一方、五体もの死体が工事現場で発見された事件を追うシャルコ警視は、死体から脳髄と眼球が抜き取られている事実に着目するが……ふたつの事件を結ぶ糸があることを、二人はまだ知る由もなかった。



ティリエの過去作品で主役を務めた二人が一堂に会し不可解な事件を追う・・・というストーリー。ワシ、ティリエは「七匹の蛾が鳴く」しか読ンだことなかったのだけど、問題なく本書を楽しめたので過去作品まったく読ンでなくても大丈夫だと思われます。つーか前に読ンだ「七匹の蛾が鳴く」は異様に重苦しい(いや面白かったけど!)覚えがあったのだけど、本書は打って変わってエンターテインメント度合いが高まっておりびっくりしたよ。しかも展開早くてテンポよいのでぐいぐい先に進みたくなってくるぜ。


本書のキモはタイトルにもある「シンドロームEとは一体何なのか?」というものなのですが、これがまたB級好きにはたまらぬアレでして、どう控えめに言っても、その、ええと、おバカ。思わず「おいちょっと待て」とツッコミたくなるレベルでありキワモノ好きには堪らぬシロモノですよ。トンデモ理論ですよ。それを作中で超説得力ある(?)よーに仕上げているのでこれはもう納得するしかありませぬ。ワシのよーなボンクラミステリ読みはひれ伏すしかなかった。一生ついていきます。


というわけでエンタメ好きやB級好き、ならびにバカミス好きなら読ンで損はないというか得しかしない本書。超オススメですぜよ。