デイヴィッド・ピース「占領都市 TOKYO YEAR ZERO?」



占領都市―TOKYO YEAR ZERO〈2〉

占領都市―TOKYO YEAR ZERO〈2〉


1948年1月26日。雪の残る寒い午後。帝国銀行椎名町支店に白衣の男が現われた。男が言葉巧みに行員たちに飲ませたのは猛毒の青酸化合物。12人が死亡、4人が生き残り、銀行からは小切手と現金が消えた。悪名高い“帝銀事件”である。苦悶する犠牲者たちのうめき、犯人の残した唯一の物証を追う刑事のあえぎ、生き残った若い娘の苦悩、毒殺犯と旧陸軍のつながりを知った刑事の絶望、禁じられた研究を行なっていた陸軍七三一部隊の深層を暴こうとするアメリカとソヴィエトそれぞれの調査官を見舞う恐怖、大陸で培養した忌まわしい記憶と狂気を抱えた殺人者。史上最悪の大量殺人事件をめぐる12の語りと12の物語―暗黒小説の鬼才が芥川龍之介の「薮の中」にオマージュを捧げ、己の文学的記憶を総動員して紡ぎ出す、毒と陰謀の黒いタペストリー。



なにこれすごい。


お話としては上記あらすじにあるよーに、帝銀事件を12の異なる語り、12の異なる文体で物語ったのが本書なのですが・・・。なのですが。この溢れンばかり(いやもう駄々漏れですが)の狂気は何事だ。文章にぶン殴られるとかいうのが比喩でなしに感じられる恐るべき作品でありましたよ。何しろ冒頭からしてすげぇ。


黒門下、屋根裏の隠し部屋、12本の蝋燭、12本の影、踊り狂う巫女、魂のない肉体、抑揚のない口調「怪談を始めよう・・・」


───と百物語めいた圧倒的ビジュアルで迫り来るのですが、ここから始まる最初の話(1本目の蝋燭)が「すすり泣く被害者らの証言」。*1いきなり初っ端が帝銀事件の被害者。この人たちすでに亡くなられているわけであり、この時点で「一体何が始まるンです?」と思わされるのですが、語られるのは毒殺された人々の怨嗟の声であり、それを描写する文章がもう狂っていて実に圧巻です。ある意味タイポグラフィと言っても過言ではないかもしれぬ。これ読ンだ時点でワシもう値段分の元とったと思いましたよ、ええ。(いやその後もすげぇのですが)


文章ってほンと凄いなぁ、と今更にながらに思わされる、インパクトある素晴らしい作品でした。これはぜひ読ンで欲しい作品。超オススメ。

*1:注:打ち消し線は原文まま