小説感想 グレッグ・イーガン「万物理論」



万物理論 (創元SF文庫)

万物理論 (創元SF文庫)


"万物理論"とは、すべての自然法則を包み込む単一の理論である。2055年、この夢の理論が完成されようとしていた。ただしその学説は3種類ある───3人の物理学者が、それぞれ異なる"万物理論"を、南太平洋の人工島で開かれる国際理論物理学会で発表するのだ。もちろん正しい理論はそのうちひとつだけ。科学系の映像ジャーナリスト、アンドルーは、三人のうち最も若い20代の女性ノーベル物理学者を中心に据えて、この理論の番組を制作することになったのだが…。学会周辺にはカルト集団が出没し、さらに世界には謎の疫病が蔓延しつつあった。当代随一の鬼才作家が描破する恐るべき未来社会。究極のハードSF。



何だか知らんが、とにかく良し!


脳みそをフル回転して読みましたが、ぶっちゃけ3分の1程度はちょっと理解できずに終わってしまいました(;´Д`) 雰囲気自体は十分に楽しめたので十分に満足したのですが…。


作品の性質上、物理学の話が多々出てくるのでその辺に引っかかる人はちょっと辛いかもしれません。一応作品上でかな〜り噛み砕いて説明はしているのですが、そもそものベース知識がないとそれでもわからんでしょうしね。そーいった意味では、かなり読み手を選ぶ本であると思います。(高校生+α程度の物理学知識で十分だと思うけど)


しかし、「万物理論」というある意味トンデモ理論を「これでもかっ!これでもかっ!」とばかりに説明/論拠を固めて、その結果有無を言わさず納得させられてしまうのは圧巻。物理学が基礎であるとはいえ、よくもまあこんな理論を生み出せたものだと心底関心してしまいましたよ。この辺の理論展開は読んでてクラクラするので(良い意味でね)、これだけでもお腹いっぱいって感じ。
粗筋を見る限りでは、3人の物理学者がお互いの揚げ足をとりまくり論戦を繰り広げてもおかしくなさそうな内容なのですが、本編ではそんなシーンが殆どなかったのがちょいと残念でした。


あと「万物理論」と平行して展開されるテーマ(宗教とか性とか自己とか)が実に興味深かったです。(普段読んでるミステリではここまで突っ込んだ内容/論理展開はないので)こーいった思想・論理展開に自分の波長が合うのは何かいいですな。






で、ダラダラと書いてきましたが、この「万物理論」、最も重要なファクターが「DISTRESS」という奇病だったりするのです。(粗筋にもありますね)
冒頭でちょっと出てきて、それから数百ページほとんど触れられない単語なのですが、後半ストーリーがこいつにリンクし始めるとあら大変。これからが本番だとばかりに怒涛の展開が始まり、「おいおいそーゆー展開になんのかよ!」とストーリーに翻弄されまくり。ネタバレになるので書きたくても書けませんが、ちょっと凄すぎですよこいつぁ。(この辺から最後まで一気読み)


「内容難しそう」とか「SFはちょっと…」という敬遠しているそこの貴方!食わず嫌いはいけません。少々値段が高いのが何ですかっ!内容よくわからなくても大丈夫!(ワシもそう)
序盤を超えるとめくるめく至福の読書体験が楽しめる本作、小説好きなら是非とも読んでおいて欲しい1作です。いやー面白かった!