小説感想 トマス・フラナガン「アデスタを吹く冷たい風」



アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)

アデスタを吹く冷たい風 (ハヤカワ・ミステリ 646)


知られざる短篇の名手が贈る、珠玉の傑作集


月が山肌を煌々と照らし、山の中腹をくねくねとうねって道が走っている。峠の頂、国境線のむこうには、共和国の哨舎の窓の灯り。その道を、トラックのヘッドライトが近づいてくる。「いよいよやってきます」若い少尉が言い、テナント少佐は葉巻に火を点けた。アデスタおろしと呼ばれる風が、彼らの哨舎を揺さぶった・・・国境を越えて禁制の銃が密輸されているのは間違いない。毎日共和国側から葡萄酒を運んでくる商人が、そのトラックで銃を運んでいるのも確実だ。だがテナント少佐の厳重な捜査でも銃は発見されなかった。見通しのよい一本道、厳重な監視下、いったいどうやって銃は密輸されるのか?EQMM年次コンテストで第一席を射止めた表題作をはじめ、職業軍人であり警察官のテナント少佐が主人公の四篇など、名品七篇を収めた、オリジナル短篇集。



大変美味しゅうございました。


さすが早川ポケミスの復刊希望アンケートで1位(それも2回も!)を獲得しただけのことはありますにゃ。もうね、ごっつい面白いとしか言いようがねっすよ。収録作全てに外れなし、ガチの本格から異色短篇風味のものまで幅広く抑えてあるパーペキ(死語)と言っても過言ではない短篇集かと。


収録作の半分以上を占めるテナント少佐ものは、舞台が軍事国家、しかもクーデター直後といった特殊なシチュエーションならではの謎がとっても魅力的。表題作「アデスタを吹く冷たい風」はクールな世界観と意外性のアイディアが実に素晴らしく、また「獅子のたてがみ」と「国のしきたり」ではテナント少佐のかっこよさに痺れまくり、「良心の問題」はある一点で事象が反転する様を大いに堪能。


ノンシリーズの「もし君が陪審員なら」と「うまくいったようだわね」は異色短篇風味の快作。前者はオチの黒さ、後者はオチは容易に読めますがそこに至るプロセスが実にわんだふるびゅーてぃふる。ラストの「玉を懐して罪あり」は「有栖川有栖の密室大図鑑」でも紹介されたことのある密室ものの佳品。歴史ミステリ風味でオチの一行が意外性がありすぎるっつーかちょっと無茶すぎね?と笑いを呼ぶワシ的にツボな逸品でした。


古いポケミスなので「っ」が「つ」表記だったり、また少々時代がかった内容ですので海外古典ミステリ読みなれてないと辛いところもあるかもしれませんが・・・実に魅力ある世界観を持つ作品ぞろいですし、何ともいえないインパクトと読後感を与えてくれる良作ですゆえ、ワシ的には超お勧めのブツでございます。ささ、お見かけの際には是非査収をば。(入手難易度は高いんだろーけど、なぁに本を探すところも読書の楽しみのうちっすよ)