小説感想 霞流一「夕陽はかえる」



夕陽はかえる (ハヤカワ・ミステリワールド)

夕陽はかえる (ハヤカワ・ミステリワールド)


プロの暗殺組織〈影ジェンシー〉で実務を手掛ける〈影ジェント〉の一人、〈カエル〉が不可能状況で殺された。明らかに同業者の手口。同僚の瀬見塚は、〈カエル〉の遺族の依頼で真相を追う。だが、〈カエル〉の後釜を狙う〈影ジェント〉たちが瀬見塚に刃を向け、彼らの怪奇を尽くした決闘の応酬は〈東京戦争〉と呼ばれるほどに発展していく。殺し屋による殺し屋殺しと推理の行方は? 背徳のSin本格誕生!



作者はアホじゃなかろーか。(注:最大級の誉め言葉です)


霞流一氏はバカミス作家としての名ばかりが先行(?)しているよーに思えるのですが、実際の作風としてはクイーンばりの消去推理を駆使したり、カーばりの奇天烈なトリックを繰り出したりと、結構ミステリとしての根本部分はまともな作家さんだったりするのです。もっとも、トリックを成立させるために犯行現場が狂った状況になることがしばしばなので、その辺が「バカだなぁ」と受け取られるところだと思うのですが・・・。(既刊「デッド・ロブスター」のえびぞり死体とかがその良い例だと思う)


で、バカミススキーのワシとしては「現状でも十分面白いんだけど、もっと世界観もブチ壊して、狂喜に満ち溢れた愉快な話にして欲しいなぁ」と思っていたところに本作、「夕陽にかえる」の登場ですよ。作者あとがきより言葉を引用すれば、

自分で言うのも何ですが、まことに奇天烈な作品世界が出来上がってしまいました。異様なしきたりの闇社会で、殺し屋たちが殺し合いを繰り広げる修羅の舞台、そこに不可能状況の殺人事件が発生し、殺し屋の探偵が調査に乗り出し、殺し屋たちの中から殺人犯を見つけ出そうとする。マラリア熱の悪夢のように、決闘、秘密兵器、ロジック、陰謀といったギミックのカオスが渦巻いています。



とのこと。・・・恐らく本格原理主義者の方は「何じゃこりゃ」と思われるでしょーが、ワシのよーなキワモノ好きには正直たまらん内容、ストライクゾーンど真ん中ですよ。表紙もまた狂っていて良い感じだし、これはもうお前のよーな変態を待っていた、ととてもいい笑顔にならざるを得ない・・・っ!


つーわけで内容なんですが、やはり霞流一らしくきっちりと本格ミステリとして仕上げて来たのはさすがだな、と。不可能状況の解明ロジック、炸裂する一発ネタ、いつものよーにビジュアル化するとシュールすぎる犯行シーンなど、個人的にはそれだけでお腹いっぱいっす。あと愉快すぎるにも程がある活劇シーンも死ぬほど堪能致しました。殺し屋の二つ名にやたらと駄洒落を仕込んでいるところがまた最高ですセンセイ!


ちょいネタバレになるので詳しくは触れませんが、各殺し屋の活劇部分が微妙に後々の伏線になっているあたりのテクニックっぷりもすげぇよなぁ。やはりバカはバカの中に隠さねばならんのか・・・っ!


えーと、まぁ間違いなく読み手を選ぶ内容だとは思いますが、愉快極まりない面白ミステリでありますのでワシとしては猛烈にプッシュしたい所存。さぁ読め読め読めっ!