小説感想 有栖川有栖「妃は船を沈める」



妃は船を沈める

妃は船を沈める


この願い事は、毒だ。
ゆっくりと全身に回る。


所有者の願い事を3つだけ、かなえてくれる「猿の手」。<妃>と綽名される女と、彼女のまわりに集う男たち。危うく震える不穏な揺り籠に抱かれて、彼らの船はどこへ向かうのだろう。───何を思って眠るのだろう。


臨床犯罪学者・火村英生が挑む、倫理と論理が奇妙にねじれた難事件。



短篇(中編?)2本に幕間をくっつけて長編仕立てにした本格ミステリ。ファンにはお馴染み火村シリーズ長編です。火村シリーズはワシとしては「江神シリーズと比べるとあんまパッとしないなぁ」というレベルだったのですが、「乱鴉の島」あたりからグッとクオリティー高くなってきて嬉しい限りですよ、ええ。本作も期待に応える十分な高クオリティーで、ロジックの展開とトリックの切れによるカタルシスを十分に堪能できました。


つーか本作では有名な「猿の手」という作品の解釈をめぐって火村と有栖川が論戦する、というシーンがあるのですが・・・。ここで展開される「猿の手」の解釈には痺れたと言わざるを得ない。なるほど、確かに火村理論もありえる解釈だよなぁ・・・。こーゆー「既存の怪奇小説」をミステリ風に解釈する*1のは面白い趣向だと思うので他の作品に対してもできるよーならやってもらいたいところ。


というわけでワシ的には大変満足のゆく本格ミステリだと思いましたので、これは是非にとお奨めしたい所存。

*1:平石貴樹「だれもがポオを愛していたでは「アッシャー家の殺人」をミステリ視点で見た場合の解釈が載ってます