小説感想 夢枕獏「東天の獅子 天の巻・嘉納流柔術」全4巻



東天の獅子〈第1巻〉天の巻・嘉納流柔術

東天の獅子〈第1巻〉天の巻・嘉納流柔術



東天の獅子〈第2巻〉天の巻・嘉納流柔術

東天の獅子〈第2巻〉天の巻・嘉納流柔術



東天の獅子〈第3巻〉天の巻・嘉納流柔術

東天の獅子〈第3巻〉天の巻・嘉納流柔術



東天の獅子 第4巻 天の巻・嘉納流柔術

東天の獅子 第4巻 天の巻・嘉納流柔術


道だけがある。他にない。


柔術から柔道へ───
文武二道の達人、嘉納治五郎の、技に対するたゆまざる追及と人間教育への情熱によって、明治になって衰退していた柔術界に新時代の息吹「講道館流」が誕生した。当初はただの新興一流派だったものが、「講道館四天王」らが頭角を現し、隆盛への道をその手に引き寄せていく!柔道、空手道、合気道───すべてにつながる格闘シーンの数々。強い、皆強い、信じられぬほど強い。漢たちは何度も立ちあがる。己が奮い立つ、後にも先にもこれしかないという傑作!



獏せンせが11年もの歳月を費やし完成させた「東天の獅子 天の巻」。「天の巻」っつーからには「地の巻」もあるんだろうな、と皆さまお思いでしょーがそこはそれ、獏せンせ。たぶん世に出てくるのは後10年以上かかると思われます。つーか当初は「コンデ・コマこと前田光世を書くンだッ!」と鼻息荒くスタートしたはずなのに、何で前田さんが出てくるのはラストにちょっとのみなのよ〜〜〜ッ?ってまぁ読んでるとよくわかるんだけど、序盤〜中盤にかけて話があちらこちら飛ぶので「あぁ、また獏せンせの悪い(?)クセが出てしまったんだなぁ」、としみじみと思ってしまいました。「面白いんだから長くなってもいいじゃん」という創作姿勢は否定しないけどさ、やるならもっと頑張って話進めてくれよぅ、獏せンせ。


内容ですけど、講道館成立、及び維新後の武術の歴史などを描いた歴史小説的一面と、あと獏せンせお得意の格闘小説が巧い事ミックスされたものになっております。1巻と2巻は歴史小説的味わいが、3巻4巻は格闘小説としての味わいが強いかな。特に「警視庁武術大会」での格闘シーンは燃える。血が滾る。テンション上がりすぎる。獏せンせの筆が走る走る。この辺ノリノリで書いたんだろうなぁ。「あれ?でも餓狼伝に似たよーなシーンなかったっけ?」というツッコミはファンならしちゃダメだぞ!それは言わぬが華だ。


とまぁ全体的には傑作だよん、と言いたいんですがケチ付けたいところもいくつか。


まず明らかに手抜きっつーかもうちょいテンション上げて書いてくれよ獏せンせ、という個所が幾つか見受けられたところ。他にはもっと嘉納治五郎という人物について掘り下げて欲しかったなぁ。この人については序盤ぐらいしかまともに語られてないし。あとこれはワシの誤読っちゃー誤読になるかもだが、格闘シーンはもちっと「講道館流」でやって欲しかったで候。格闘シーン読んでると、「講道館流だから強い」っつーんじゃなくて「単に戦ってる人物が強い」よーに思えたので。まぁでも講道館流そのものが他流派をまとめて昇華したものなのでこれといった特徴がないと言えばないから、あんま書きようが無かったのかもだが。


でもケチ付けたいところも含めて傑作だと思いますので、獏ファンならびに格闘技ファンなら是非にとお勧めしたいところです。