小説感想 マーゴ・ラナガン「ブラックジュース」



ブラックジュース (奇想コレクション)

ブラックジュース (奇想コレクション)


わたしたちは歌いながらおまえが沈んでいくのを見送るわ───


夫殺しの罪でタール池に生きたまま沈められる姉さんの死を、僕たちは歌いながら最後まで見届ける―世界幻想文学大賞受賞の残酷譚「沈んでいく姉さんを送る歌」、道化師を執拗に狙う殺し屋を描く「赤鼻の日」、象の一人称で語られる逃走劇「愛しいピピット」、奇形の天使との遭遇を描くファンタジー「俗世の働き手」、大気が汚染されつくした近未来、祖母の葬儀へ向かう孫が幼い日の記憶をたどる「無窮の光」、凶暴な怪物の襲来に怯える異世界を舞台にした、少女の苦い初恋物語「ヨウリンイン」ほか、全10篇。



まさに奇想コレクションの名に相応しいヘンテコな話ばかりを取り揃えた短編集。全体的にくら〜い話が多いのですが、あんま読後感は悪くないこの不思議。幻想小説っぽいんですがそこまで幻想的でもなく、かといって現実的な話かっつーとそーでもなく、何かほんと独特の世界観を持ったお話ばかり。「奇妙ッ!まさに奇妙ッ!」といった感じでございます。深く掘り下げよーとすれば幾らでも出来ただろーに、そーゆー手段をとらず「とりあえず深いこと考えずに読んで困惑していってね!」といわんばかりの投げっぱなし、とーとつに始まりとーとつに終わるこの作風には好みが別れそうですがワシ的にはど真ん中ストライクだったので何ら問題なかとですばい。


特にツボに入ったのは「沈んでいく姉さんを送る歌」「大勢の家」「俗世の働き手」「ヨウリンイン」「春の儀式」かな。収録作品の半分がツボに入った(他のも面白かったですよん)ので個人的には大満足の一品と言えましょう。とりわけ「沈んでいく姉さんを送る歌」は強烈このうえない作品なのでお勧め。