小説感想 北野勇作「北野勇作どうぶつ図鑑 その6 いもり」



北野勇作どうぶつ図鑑〈その6〉いもり (ハヤカワ文庫JA)

北野勇作どうぶつ図鑑〈その6〉いもり (ハヤカワ文庫JA)


北野勇作さんといえば、ずばり“動物”。日本SF大賞受賞作『かめくん』はいうまでもなく、『ザリガニマン』『イカ星人』など、その作品の多くには数々の動物たちが重要なモチーフとして登場します。そんな北野さんの作品世界を、おりがみ付コンパクト文庫という形で表現したのが、『北野勇作どうぶつ図鑑』です。短篇20本、ショートショート12本をテーマ別に編集、全6巻に収録しました。『その6 いもり』には、「曖昧な旅」「イモリの歯車」ほか不思議な紀行もの3篇を収めました。あのカメリも、福引きで当てたハワイ旅行に出かけます。"夢のハワイ"に───。北野さんならではの、どこか懐しくて、どこか切ない世界にひたってください。



北野勇作どうぶつ図鑑」もこれにて最終巻。本書はカメリが登場する作品以外の2編はショートショートの集まりのよーな内容で、「北野氏のショートショートが読みてぇ!」と渇望している人間にとってはまさに至福の1冊と言えましょう。


「曖昧な旅」はタイトルどーり、北野SFではお馴染みのモチーフであるところの曖昧さ、すなわち虚と実をふんだんに取り入れたショートショート集。現実感がありながら幻想である奇妙な世界にどっぷり浸れる北野氏ならではの逸品。「イモリの歯車」はタイトルどーりイモリをテーマにした、これまたショートショート集(ちょっと連作風味?)。イモリとヒトとの曖昧さが不思議な読後感をもたらす、これまた愉快な作品。「カメリ、ハワイ旅行を当てる」では何とカメリがハワイに!って「ヒト」がいない「ヒトデナシ」の世界におけるハワイなのでまっとうな場所ではないのですが、それでも染み渡るこのノスタルジーさに酔いしれるワシでしたとさ。


しかし北野氏のショートショートは面白いな。もっと量産してくれないかしら。