小説感想 シリル・ヘアー「自殺じゃない!」



自殺じゃない! 世界探偵小説全集 (32)

自殺じゃない! 世界探偵小説全集 (32)


マレット警部が旅先のホテルで知り合った老人は、翌朝、睡眠薬の飲み過ぎで死亡していた。検死審問では自殺の評決が下ったが、父親が自殺したとは信じられない老人の子供たちとその婚約者は、アマチュア探偵団を結成、独自に事件の調査に乗り出した。やがて、当日、ホテルには何人かの不審な人物が泊まっていたことが明らかにされていくが・・・。英国ミステリの正統を受け継ぐ本格派ヘアーの香り高いヴィンテージ・ミステリ。



英国の風が吹く。渋い。渋すぎる。


が、同全集に収録されている「英国風の殺人」よりもユーモア風味があるので結構楽しく読めました。何か世間的には「地味」「退屈」みたいな評価が与えられているっぽいですが、ワシ的には少なくとも「退屈」には感じられなかったなぁ。「地味」って点にはまったくもって同意するけど。別に大トリックが仕掛けられているわけでもないし、展開もサスペンスフルかっつーとそーでもなくむしろアットホームな感じだし。


しかしですな、本作でメインを張るアマチュア探偵団の「だって自殺なら保険金下りないじゃん」という俗な活動理由、ヘタレ臭漂う調査っぷり、まったくもって喧喧諤諤とは程遠い議論、この辺を微笑ましく生暖かい気持ちで見守っているとラストで結構なドンデン返しが炸裂してビックリすることになるのでゆめゆめ油断することなかれですだよ。オチを踏まえて犯人の行動を振り返ると地味に笑えるのが実にステキだ。やるなシリル・ヘアー。


というわけで古典がお好きな方なら読まれて損はない作品かと。紅茶でも飲みながら英国風古典ミステリの世界にどっぷり浸るがよいよいよい。