小説感想 法月綸太郎編「法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー」



法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)

法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)


不可能犯罪、密室殺人、読者への挑戦が挿入された犯人当て、大胆不敵なミスディレクションなど初心者からマニアまで楽しめる本格ミステリ・アンソロジー。選者・法月綸太郎ならではの風刺の利いたものや、本格エッセンスが凝縮された小説などバラエティに富んだ作品が満載!イギリス、アメリカ、日本の三つの国からセレクトされた選りすぐりの謎にあなたも挑戦してみませんか?(文庫オリジナル)



バラエティに富んだナイスアンソロジー


狂ったミステリからガチの本格まで、多種多様な短編をセレクトしたアンソロジー
しかし、どー考えても初心者向けではないよーな。(トリッキーなものばかりだし) マニア大喜び、初心者ちょっと苦笑いという本書、それではいつものよーにミニコメをば。


あ、あとアンソロジーだけではなく法月氏のエッセイも収録されていますのでファンはその辺も要チェックだっ!


ウディ・アレン「ミスター・ビッグ」


初っ端からトンでもない作品が登場(;´Д`)
ハードボイルドのパロディ、という皮を被った狂気の小説。こんなん笑うしかねーっての!


小泉八雲「はかりごと」


ミステリっつーよりは怪奇。小泉八雲ってこんな話も書いてるのね、一度ちゃんと読んでみよーかな?


ロナルド・A・ノックス「動機」


ノックスの十戒」でお馴染みの作家。てっきりガチの本格かと思いきや、さに非ず。ワシが大好きな「異様な動機」がテーマのミステリ、実に素晴らしい。オチもナイスで言うことなしです。


C・デイリー・キング「消えた美人スター」


「密室からの消失」をテーマにした、オーソドックスなミステリ。本書収録作の中では正統派な一品。


ジョン・スラディック「密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー」


ワシの中ではバカミス作家としての地位を不動のものとしているスラディックなのですが、本作も期待を裏切ることなくやってくれました。こんなの読まされると、密室大好き作家が書く「密室講義」が児戯に見えてしまうよなぁ…。


西村京太郎「白い殉教者」


月氏の指摘のよーに、西村版「人形はなぜ殺される」といった内容。西村京太郎がこんなガチな本格を書いていた、というのがちょっと驚き。そして文章は相変わらず読点多すぎでした。(;´Д`)


エラリー・クイーン「ニック・ザ・ナイフ」


クイーン原案のラジオドラマ脚本だそーですが…。いや、さすがクイーンと言うべきか。「九尾の猫」をコンパクトにした感じの内容なのですが、まあミスディレクションの巧みなことよ。ニッキー・ポーターが相変わらずウザイのはご愛嬌かな(;´Д`)


エドマンド・クリスピン&ジェフリーブッシュ「誰がベイカーを殺したか?」


詭弁ここに極まれり、といった内容。もう開いた口が塞がりませんよ!
でも大好き。


中西智明「ひとりじゃ死ねない」


まさか、また中西智明氏の小説が読める日がこよーとは…ッ!「密室!」同様、本作も騙しのテクニックが華麗に炸裂した怪作になっております。さすがだ。犯人がわかって読んでも、そのフェアプレイぶりに心酔してしまうナイス短編。


個人的に本アンソロジーのベスト作品、いつか出るであろう2作目も楽しみにしてます。


レジナルド・ヒル「脱出経路」


独房からの脱出、といえば有名なフットレル「13号独房の問題」が連想されますが…。
本作は密室からの脱出がちょいと乱暴な分、脱出者と監視人の心理戦(?)が読み応えあります。すごいサスペンス性だ…。


大平健「偽患者の経歴」


ミステリではなく、精神科に務められた医者による実録エッセイ。
やっぱり実話は破壊力が違うよなぁ・・・、そして面白いなぁ。


ホルヘ・ルイス・ボルヘス「死とコンパス」


引き合いにストリブリング「カリブ諸島の手がかり」が出されていますけど…そちらに比べれば数段落ちるよなぁ、コレ。ボルヘスが書いた、ってのがポイント高いのかも知れませんが。






総括としては大変愉快なアンソロジーで大満足、といったところです。ミステリ好きなら是非一読を。