小説感想 詠坂雄二「遠海事件」

遠海事件

日本犯罪史上稀に見る凶悪犯。
その素顔は、究極的に無個性だった。


佐藤誠。八十六件の殺人を自供した殺人鬼。
その犯罪は、いつも完璧に計画的で、死体を含めた証拠隠滅も徹底していた。
ただひとつの、例外を除いては。


有能な書店員だった彼は、なぜ遺体の首を切断するに到ったのか。
冷静で完璧な大量殺人犯の、ただ一つの不可解な事件「遠海事件」とは？

うぉ、思っていた以上に本格ミステリしてるじゃんよこれ。


デビュー作「リロ･グラ･シスタ」に続く作品となる本書。前作は個人的にはちょいイマイチだったのですが、本書は素直に楽しむことができました。本格ミステリの十八番（？）であるところの「首切り死体」を巡る内容なのですが、「なんで首を切る必要があったのん？なんで『遠海事件』だけ特別な事件になってしまったのん？」というWHY要素を巧く処理しており、そのWHY的な部分が大量殺人犯･佐藤誠というキャラクターの個性を際立たせております。荒唐無稽な事件ながら、この説得力は圧倒的で凄いの一言。トリックは勿論、ロジックも水準以上、かつオチの捻りも効果的な故、本格ミステリとしては十分すぎるほどのクオリティーかと。


つーわけで安心してお勧めできる良品でございます。本格ファンなら是非に。