小説感想 S=A・ステーマン「殺人者は21番地に住む」



殺人者は21番地に住む (創元推理文庫 (212‐1))

殺人者は21番地に住む (創元推理文庫 (212‐1))


霧深いロンドンの街で起る連続殺人。犯行現場に必ず残されている<スミス氏>の名刺。第二の切り裂きジャック事件、と騒がれた矢先、凶行現場から立ち去る男を尾けたという目撃者が現れ、犯人の住み家が判明する。ラッセル広場21番地。だが、そこは素人下宿だった。犯人は下宿人のなかの誰かなのか?ロンドン警視庁の必至の捜査の末に一人の容疑者が逮捕される。が・・・!?クイーンばりの二度にわたる読者への挑戦とダイイング・メッセージ、ヴァン・ダインを思わせるブリッジによる犯人心理の解明等々、読者を唸らせるにはおかない本格長編。



おおう、渋い。2度に渡る読者への挑戦状、犯人解明へのプロセスにおける容疑者一同を集めてのブリッジ大会における人間心理など、本格ミステリファンには辛抱たまらん要素がてんこ盛り。切り裂きジャックを彷彿とさせる無差別な都市型犯罪を扱っているにも関わらず、クイーンが「九尾の猫」にて描写を試みた群集心理などにはまったくページを割かずに、ただただ「21番地に住む下宿人の中で犯人は誰なのか?」について伏線を貼りつつストーリーが展開されるところが潔くて大いにステキ。もっとも、脇道にそれることなく話がずんずん進み、また下宿人の中でも犯人足りえる存在がやたら限定されるので「犯人当て」としての難易度はかなり低い部類に入ると思うけど。まぁ裏を返せばそんだけフェアに作者が勝負してるってことなんだけどさ。


現在では絶版なので入手は難しい部類に入ると思いますが、良く出来た本格ミステリですので古本屋やらアマゾンのマケプレでお見かけの際には手に取ってみてはいかがでせう。本格ファンなら気に入ると思いますよん。