第3回福岡ミステリー読書会 ランズデール編レポ



前回のレポがすげぇ手抜きだったので今回はちゃンとやるよ!


というわけで9月3日(土曜日)、翻訳ミステリー大賞シンジケート主催 第3回福岡読書会に参加してきました。まず参加募集のチラシがこちら。





チラシ見てもらえばわかると思うのですが7日(水)にクリスティーの読書会もあります。もう時間ないですが、興味をお持ちの方はお気軽にどぞ。


って宣伝は置いておき、参加したのはランズデール読書会。お題は「罪深き誘惑のマンボ」でありますよ。ランズデールは読ンだことなかったので、今回の読書会は手を出してみる良いきっかけになってくれました。ちなみに昔、「プレスリーVSミイラ男」をレイトショーで見ていたのでランズデール作品には一応触れてはいたのですが。(原作は短編「ババ・ホ・テップ」、早川書房の短篇集『現代短編の名手たち』に収録されてます)


現代短篇の名手たち4 ババ・ホ・テップ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

現代短篇の名手たち4 ババ・ホ・テップ (ハヤカワ・ミステリ文庫)



で、当日。会場がこちら。





入り口。





内部は撮り忘れてた(;´Д`) こちらのサイトにて会場の内外が紹介されているので興味をお持ちの方は参照ぷりーず。


参加者は11人。(世話人のお二方を含む) 初参加者が1人で、あとは経験者でした。前回のキャロル・オコンネル「クリスマスに少女は還る」は満席だったのに対しこの差は一体なンだ。お題か。お題がいかンかったのか。それとも日程的なものなのか。まぁ人数が少なかった分、結構濃い話ができていたよーな気がしたので結果オーライではありましたが。(前回は自己紹介+一言くらいで終わってしまった感があったしね・・・)


で、お題の本・ジョー・R・ランズデール「罪深き誘惑のマンボ」がこちら。初版とそれ以降でカバーが違うみたいなので、その辺気になる人は購入の際に注意してね!


罪深き誘惑のマンボ (角川文庫)

罪深き誘惑のマンボ (角川文庫)



では以下、読書会のメモを。ネタバレ全開なので未読の人は注意をば。

  • 抜群に面白かった
  • テンションが高い話なので読むのが疲れる
  • 熱い友情がいい
  • 汚い話だった
  • 会話がいい
  • 恋人とか警部補とかシリーズキャラだったの?
  • シリーズ読みたくても入手しにくい
  • 他のシリーズも読みたくなった
  • ストーリーは単純だけどとにかく読ませる
  • 会話というか翻訳のセンスが光る
  • いまいち面白さがわからなかった
  • ラストの展開が3.11を連想させ読むことができなかった
  • かきタマゴって何だよ(初版だと240ページのところ)
  • 昔はカタカナで直訳するより強引に日本語を当ててるのが多かった気がする
  • 主役のコンビが私服警官だとしばらく勘違いしてた
  • グローブタウンの連中はある意味正直に生きている人々ではないのか
  • 少なくとも偽善的ではない
  • 犯人の動機が金っていう大変わかり易いものでちょっとほっとした
  • あまり面白くなかった
  • 主役二人が大変魅力的
  • 会話が下品すぎ
  • でも楽しい
  • アメリカ人って皆こういう会話センスを持ってるの?
  • 映画とかTVドラマっぽいね
  • 事前の情報では「ひどい話」と聞いていたけど、割とすらすら読めた
  • シリーズものなので他の話が気になるね
  • 主役二人のコンビの根源に怒りみたいなものが感じられた
  • 自分の一部をなくし、結局取り戻すことができなかった喪失感的な何か
  • 切ない
  • あまり関係ないかもだけど映画「マグノリア」が連想された
  • 冒頭で家焼いてるけど何だこれ
  • 過去作でも焼いてるよ 知らないと冒頭がちょっとわかりにくい気がする
  • 結末はどうでもいい感じ ストーリー重視って感じではない
  • ハードボイルド的味わいがある
  • ゴシックホラー的味わいがある (特に墓場のくだり)
  • 洪水はノアの方舟的印象 穢れたものを洗い流す
  • 署長が新しい街を作る、みたいなことを言っているのも印象的
  • ハップが本好き(しかもB級っぽいものを好む?)なのはランズデール自身を投影?
  • 脇役のチャーリィ(影絵の人)がいい味
  • 幻のテープは結局あったのか?
  • それとなく匂わせてはいるけど、ぼかしているよね
  • ブルーカラーの洗練された犯罪ではなく、ワーキングプア的な層の衝動的な犯罪であるのも印象的
  • 本書が面白く思えなくても、続編の「バッド・チリ」は面白いかもよ
  • 「人にはススメられない仕事」もいいよ!
  • ボトムズ」は叙情豊かでいいよ!
  • 「テキサス・ナイトランナーズ」もオススメだよ!
  • 南部生まれならではの作品
  • 悪役であったジャクソン・トルーマン・ブラウンは本書では特に鉄槌とかはくだらなかったけど、続編で出てくるの?
  • まったく出てこない
  • というかランズデール作品は金持ちは結局金持ち、みたいな話が多い
  • ネオ・ハードボイルド的な探偵しか今後は出てこないのか?
  • 9.11以降変わった気がする
  • というか心も体もマッチョな探偵役はあまり受けない?
  • たまにはそういうのも読みたい
  • ランズデールってマーシャルアーツのインストラクターなのかよ!
  • 若い頃は相当イケメン
  • アンドリュー・ヴァクスと仲がいいらしい
  • ヴァクスもイケメン 眼帯かっこいい!



といったところ。この他には翻訳上のNGワード的な話(表現上の問題)とか、「Oh my god」とかの使用方法とかが話題に上がりました。ワシ的には「あンま面白くなかった」って言ってたのが女性だったのが印象に残りましたよ。・・・まぁ下品で猥雑だしな・・・人を選ぶのは間違いない作品だしな・・・


大体上記の感じです。最後に本書の担当編集者、および翻訳者の鎌田三平氏が読書会に寄せたメッセージを記載しておきます。(掲載許可は得てます)

角川書店、担当編集者からのメッセージ


『罪深き誘惑のマンボ』(角川文庫、平成八年八月刊)は、私が翻訳編集部に配属されてまだ間もない頃に担当した、なかなかに思い出深い作品です。
 舞台はKKKが支配する人種偏見に満ちた街で、主人公はストレートの白人とゲイの黒人コンビ。この二人組がやけに饒舌なのですが、その会話はかなり過激で、心配した校正者からゲラにかなりえんぴつが入っていたことを思いだします。
 現在ですと、シノプシスを読んだ段階でちょっと腰が引けてしまうような設定の作品かもしれませんが、当時の私は経験不足が幸いして(?)、猥雑ながらも抜群に面白いこの物語の魅力にハマり、あっという間に本作りの時間が過ぎていったように記憶しております。刊行されると、主人公二人組のマシンガン・トークを見事に捌いた鎌田三平さんの見事な仕事が評判を呼びました。
 ビギナーズ・ラックもあったのか、年末の『このミステリーがすごい!』では6位に入りまして、重版もかかりました。おかげで、このシリーズの翻訳はあと四冊、続くことになり、装丁も当時まだ文庫のカバーを手がけていなかった寺田克也さんを起用して、独特の統一感あるものになりました(寺田さんも毎回ゲラを楽しみにしてくださいました)。カバーを気に入って、平台で展開して下さる書店さんもありました。
 もともとランズデールは、サスペンス、ホラー、ウェスタンを書き分ける実力派として、海外で評価の高い作家でしたが、日本でもこの作品をきっかけにして注目されるようになったのは嬉しい限りです。このシリーズはどれも甲乙つけがたい仕上がりですので、未読の方はぜひ残りの作品もお楽しみ下さい。


訳者の鎌田三平氏からのメッセージ


 ま、内容については皆さん方が語り合うでしょうし、翻訳者の語るべきことでもないとおもうので、翻訳の際の苦労とか、色々と。
 角川の編集者から原書を渡され、読んでみたとき、えっと思ったのを覚えています。なかなか過激だし、翻訳は面倒そうだし。面倒だというのは、もちろん過激な(あえて差別とは言いません)用語のオンパレード。しかも主人公の一人はゲイの黒人。
 そのあたり、ちょっと書かせてもらうと……わたしは翻訳をする際に、まずキーパーソン(必ずしも主人公ではない)の口調を決めます。バリバリの軍人とか、冷血漢の殺し屋とかだとイメージがつかみやすく口調が決めやすいので大歓迎です。キーパーソンの口調が決まってから、それに比べて男Aは神経質で、少し教養のある口調、男Bは傲慢で、いささか鈍い、男Cは穏やかだが主人公に対しては反抗的、という具合にその他の人物の口調を確定していきます。基準となる人物がいるのでセリフを考えるのは楽になります。もちろん、それが絶対ではなく、訳している途中でガラっと口調を入れ替えたりもします。また、そうしょっちゅう都合のいい登場人物がいるわけではありません。
 今回、白人と黒人、ストレートとゲイという違いはあっても、わりと近い考え方、行動の二人組が主人公なので、セリフに関してはとても苦労しました。
 キーパーソンはレナードにしました。ゲイだがマッチョなのでオネエ言葉は使わない。ハップを除く世間に対しては攻撃的なところがある。それなりの教養はあるが高等教育を受けたわけではないので乱暴な口調。一方、ハップは、語り手ということもあって世間に対しては少し引いている。つまり、多少穏やかで、心持ち弱気な口調。……という基本路線を決めておいて訳していったのですが、計算通りに行かないのが翻訳の面白いところというか、面倒なところというか、いやあ大変でした。わたしはゲラにはできるだけ無駄な朱を入れないように心がけているんですが、この時はゲラでもずいぶん直させてもらいました。
 ゲラといえば、面倒のもう一つのタネが、用語でした。描写もそうですが、表現がもう汚い汚い。先達の中村能三氏がおっしゃっていたことがあるんですが「わいせつな言葉を使っても法律には引っかからないよ。ただ、翻訳者の品性が疑われるけどね」
 ランズデールに関しては、そんなことは言ってられません。開き直って使っちゃいましたけど。それでも、日本語というのはわいせつ語とか罵倒語に関しては、語彙がそれほど多くないんですよね。みんなが知らない言葉を使ってもインパクトがないし。そのあたりは本書を読みながら翻訳者の知られざる苦労を偲んでください。
 用語のもう一つは、言わずと知れたNで始まる言葉。最近はポリティカル・コレクトネスでアフリカ系アメリカ人とか表記されている本も多いのですが、それはあくまでポリティカルな、公文書、コメントに関してだけの問題で、映画テレビ日常生活では、普通にBで始まる言葉が使われています。本書ではNで始まるほうだから、いっそう面倒なんですがね。それ以外にもさまざまな罵倒語、卑語があったために、ゲラは校閲の付箋で花ざかり状態でした。幸いなことに編集者もこちらの味方をしてくれて、力技で押し通したことも多々ありました。
 あとで聞いたのですが、校閲係というのは、別の選択肢がある場合には、校閲本人の意見とはかかわりなくチェックを入れるのだそうです。つまり「アフリカ系アメリカ人ちゅう言葉を知らんのか、ボケェ!」と言っているわけではなく、「黒人という言葉にはアフリカ系アメリカ人という言い換え方もございます。念のため、一筆書き添えておきますので」ということなんだそうです。
 ランズデールは邦訳一作目の本書が好評だったおかげでシリーズ外作品を含めて六作を手がけることができました。実は、ランズデールはB社もH社も狙っていて、内容のこともあって二の足を踏んでいたのが、本書の成功で行けると見たのか、その後、どちらからも邦訳が出ました。
 わたしは角川では、レへインのパトリック・アンド・アンジーのシリーズもやらせてもらっていて、一時期は両方を交互に翻訳していたような感じでした。どちらも作者にあったことはないですが、レへインは冷たく厳しいボストン人で、ランズデールは騒々しいけれども人のいい南部人、というイメージが頭の中にできあがっています。実際はどうなんだろう?
 あまり参考にならないことを長々と書いてしまいました。理屈も裏話も忘れて、ランズデールを楽しんでいただけるなら訳者にとっては本望です。



おまけ:当日のテキストに掲載されていたジョー・R・ランズデールの紹介文。

著者紹介
ジョー・R・ランズデール
1951年、テキサス生まれ。作家、マーシャルアーツのインストラクター。ホラー、ミステリ、SF、ウェスタン、コミックの原作など幅広いジャンルを手がける。ハップ&レナードのシリーズがランズデールの代表作だが、アメリカ本国で2000年に発表された単発作品『ボトムズ』(早川書房)がアメリカ探偵作家クラブ長篇賞受賞と高い評価を得て(ハップ&レナードからは一転して、犯罪を主題に扱いながらも南部を叙情豊かに描いた文芸寄りの作品)以降そうした作風のものが続いたが、2009年、2011年とふたたびシリーズ作品を発表し、ファンを喜ばせている。


《ハップ&レナード・シリーズ》
長篇
・Savage Season (1990)
・『ムーチョ・モージョ』
・『罪深き誘惑のマンボ』
・『バッド・チリ』
・『人にはススメられない仕事』
・『テキサスの懲りない面々』(以上、角川文庫)
・Vanilla Ride (2009)
・Devil Red (2011)


中編
・Hyenas (2011)


短篇
「ヴェイルの訪問」(アンドリュー・ヴァクスとの共作)、「デス・バイ・チリ」
(いずれも『現代短篇の名手たち4 ババ・ホ・テップ』(早川書房) 収録)
↑ちなみにこの表題作「ババ・ホ・テップ」は映画《プレスリーVSミイラ男》の原作