ジョン・ディクスン・カー「皇帝のかぎ煙草入れ」




フランスの避暑地ラ・バンドレットに暮らす若い女性イヴは、婚約者トビイの父サー・モーリス殺害の容疑をかけられる。夜更けの犯行時には現場に面した自宅の寝室にいた彼女だが、部屋に忍びこんだ前夫ネッドのせいでアリバイを主張できない。完璧な状況証拠も加わって、イヴは絶体絶命の窮地に追いこまれる──。「このトリックには、さすがのわたしも脱帽する」とアガサ・クリスティをして驚嘆せしめた、巨匠カー不朽の本格長編。



これまた新訳を機に再読。数年前に読ンだ際には「カーっぽくないなぁ」と思った覚えがあるのですが、今回再読したところ「めっちゃカーやンけ!」と感想がアップデートされました。当時のワシの目は残念ながら曇っていたと言わざるを得ない。いや、確か当時はまだ本格原理主義的な読み方していたころだよな。ならばトリックだけに目をやって本書を「カーじゃねぇなぁ」と言いたくなったのもわからンではない気がする。だが原理主義から脱却した今、作品全体を俯瞰して見ると本書はカー以外の何者でもないですよ。展開の妙技とか味わいとか、ワシがカーに求める要素が全て詰まっておる。やはりカーはよい。


シリーズ探偵が登場しない作品でもあり、かなり読みやすい話でもありますのでカーの入門作品としては最適かと。