小説感想 天城一「天城一の密室犯罪学教程」



天城一の密室犯罪学教程

天城一の密室犯罪学教程


「幻の探偵作家」の初作品集!理論と実践で提示する"本格推理の真髄"がここにある!



重度のミステリオタク以外は手を出すなっ!


国内の古典ミステリを愛する人間にとって、天城一といえばカルトな人気を持つ作家として有名。(一般的な知名度はゼロでしょうけど…) 本業の大学教授が忙しかったというものあるのでしょうが、何と本書が商業ベースでの初の作品集となります。(何とデビューして50年以上経ってから!)
私家版での出版はたま〜にやっていたようですが、そんなもの地方在住の人間が手にとれるわけもないので(;´Д`) 本書日本全国のミステリオタクの渇望をこれ以上ないって位、癒してくれたのではないでしょうか。


逆に「このミス」3位、「本格ミステリベスト10」9位、という肩書きで興味を持ち、読まれた方はかなり戸惑ったかもしれません。エンターテインメント要素は皆無に等しく、ただただ「論理遊戯としての推理小説」を目指していますので「新本格」にしか馴染みのない読者は「何じゃこりゃ」と思うでしょーな。


まあ人を選ぶ本なのは間違いありませんので。「新本格」しか読んでない or 古典嫌いという方はスルーするが吉かと。


で、本書の内容ですが「麻耶シリーズ」と呼ばれる短編集+表題作「密室犯罪学教程」の2パートから構成されています。「麻耶シリーズ」の短編に触れる限りでは、天城一はかなりのトリックメーカーだと思わされるのですが…。「密室犯罪学教程」を読むに至り、ちょっと感じが変わりました。


「密室犯罪学教程」は実践編と理論編から構成されており、実践編が密室を扱った短編集、理論編がその解説という体裁をとっています。で、この理論編で展開されるのが、密室トリックを生かすための舞台設定、登場キャラの配置、その他「何をどう設定すれば密室トリックが映えるのか?」といった密室ミステリの作法。
実践編を一読するだけでは「読みにくいなぁ」という程度の感想しか持ち合わせなかったのですが(;´Д`) 理論編を読んだ後再読すると、密室を扱った推理小説として実に無駄がない内容になっていることに気づきました。素晴らしい。


古典好きなら必読の書。迷うことなく買うべし。
(ちなみに、ワシは収録作では「盗まれた手紙」「むだ騒ぎ」「高天原の犯罪」がお気に入り)