小説感想 柄刀一「ゴーレムの檻 三月宇佐見のお茶の会」



ゴーレムの檻 (カッパノベルス)

ゴーレムの檻 (カッパノベルス)


謎と幻想と浪漫に満ちた、宇佐見博士のお茶会にようこそ。


サンフランシスコ近郊の研究所に勤める博物学者・宇佐見護博士は、紅茶を飲みながら思索をめぐらし、幻想の旅に出る。M・C・エッシャーの絵画が現実化した街へ。あるいはシュレディンガーの猫の生死の境へ。はたまた未だ書かれ得ぬ空白の物語の中へ。そして、神に見捨てられた牢獄と、神の助けで脱獄した囚人の傍らへ…。呪わしくも美しい、浪漫派本格推理の傑作!杉江松恋氏の詳細な解説を附す。



かなりの高レベルの短編集、実に素晴らしかったです。


「三月宇佐見のお茶の会」シリーズ第2段。(前作は「アリア系銀河鉄道」だったかな?)
まずは表紙が目に付きますが、内容も負けず劣らず素晴らしい。ファンタジー要素が強い本シリーズですが、短編という内容にも関わらず、「世界の構築」と「解体」をきっちりと行っているあたり、生半可ではない柄刀氏の技量を感じます。


短編集なので、例によって各作品に対しミニコメを。


エッシャー世界」


エッシャーの騙し絵」という幻想的な世界が舞台。有名な「ペンローズの階段」がモチーフとなっているのですが、この作品に対する『真犯人がいてこそ、この絵は存在する…』という冒頭の文章が超ツボ。アイディア・トリックともに実に堪能しました。


本作品集の中ではこれが一番好きかな?


シュレディンガーDOOR」


有名な「シュレディンガーの猫」をモチーフとしたミステリ。これは割と普通の内容(?)で、宇佐見シリーズが持つ幻想的な雰囲気がそんなに感じられませんでした。…と思っていたら最後にやられました(;´Д`) 柄刀氏としては珍しく、奇想天外な物理トリックが存在しないミステリ。論理よりの内容なのが印象的でした。


「見えない人、宇佐見風」


持ち込まれた推理小説を宇佐見博士が読んで推理する、という「作中作」を扱った内容。宇佐見博士と読者が同じ錯誤をしてしまうこと間違いなし!なナイス1品。ラストシーンがいいなぁ。


「ゴーレムの檻」


素晴らしい。密室のinとoutを逆転させることで密室から逃れる、というまるで山口雅也のよーなミステリ観が炸裂する重厚な1品。杉江松恋氏の解説で指摘されているよーに「言葉<ロゴス>」によって周りを追い詰めるゴーレムが忘れがたい印象を残す内容でした。


「太陽殿のイシス (ゴーレムの檻 現代版)」


「ゴーレムの檻」とほぼ同じ手法で描かれながら、結果としてゴーレムの檻のトリックを否定してしまう、という捻くれぶりがとっても印象的。この話だけちょっと読みにくい感じがありましたが、十分及第点です。






実に楽しめた短編集でした。奇想良し、アイディア良しとかなり高レベル短編集だと思いますので、個人的には超オススメです。いやー面白かった。