小説感想 芦辺拓「明智小五郎対金田一耕助」



明智小五郎対金田一耕助 (創元推理文庫)

明智小五郎対金田一耕助 (創元推理文庫)


大日本が誇る繁華の象徴、商都大阪。戦争の足音とともに翳りが忍び寄る昭和12年の冬、二人の名探偵がかの地を訪れる。明智小五郎は大陸から東京への帰路の中途に、そして金田一耕助は薬問屋本家の娘の依頼を受けて。彼女によると事は老舗二軒の本家争いに端を発し、揚げ句に本家の長男が元祖を名乗る大店の若旦那に硫酸を浴びせたのち失踪したという。残された本家の妹と黒頭巾を余儀なくされた件の主の間で続く静かな緊張は、金田一の到着とともに異様な事件に発展し・・・。目眩くどんでん返しが連続する表題作ほか、雷鳴轟く古城で起きた不可能犯罪にフレンチ警部と密室派の名探偵が挑む「フレンチ警部と雷鳴の城」など、古今東西の名探偵が大活躍の7編を収録。



芦辺拓パスティーシュ集第2弾。今回のメインは日本を代表する探偵二人の夢の饗宴!しかもタイトルどーり微妙に「VS」風味になっているのがまた憎い。話的にも金田一特有のドロドロした人間関係(黒頭巾の若旦那、という何とも妖しい人まで登場)やら乱歩ちっくな無茶トリックやらが盛りだくさんで、エンターテインメントかつ良質な本格ミステリとして楽しめました。これはいいパスティーシュ。「フレンチ警部と雷鳴の城」は(自主規制)のファンならば一度は思ったネタを繰り出し、かつ無理なくプロットに組み込んだあたりが素晴らしい。「ブラウン神父の日本趣味」は<見えない人>テーマの極北・・・とは言いすぎか?「そりゃねーよ」という限界ギリギリの無茶トリックがステキ。ラストの「少年は怪人を夢見る」も幻想的雰囲気がいいなぁ。主役は誰かは言わぬが華、というものでしょ。


というわけで今回も前作同様、高安定の良質パスティーシュ本格ミステリとなっていますのでこの手のジャンルがお好きな方は是非是非。