小説感想 スティーヴ･ホッケンスミス「荒野のホームズ」

荒野のホームズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814)

人生で大事なことはすべてシャーロックから学んだ。


洪水で家も家族も失ったおれと兄貴のオールド･レッドは、いまでは西部の牧場を渡り歩く、雇われカウボーイの生活を送っている。だが、ある時めぐりあった一篇の物語『赤毛連盟』が兄貴を変えた。その日から兄貴は論理的推理を武器とする探偵を自認するようになったのだ。そして今、おれたちが雇われた牧場は、どこか怪しげだった。兄貴の探偵の血が騒ぐ。やがて牛の暴走に踏みにじられた死体が見つかると、兄貴の目がキラリと光った･･･かの名探偵の魂を宿した快男児が、西部の荒野を舞台にくりひろげる名推理。痛快ウェスタン･ミステリ登場！

カウボーイのタフさ＋ホームズの知能＝最高の名探偵。


道を歩けばそこかしこのチンピラに「待ちなよ･･･」と難癖つけられ銃撃戦になり血で血を洗う無法の荒野･ウェスターンを舞台に、ホームズの冒険譚を読むことにより「これだ！これがオレの生きる道だ！」と天啓を受けたカウボーイのレッド兄貴がVR牧場で起きた怪事件を鮮やかに解決する愉快痛快ミステリ。設定だけだと「それ何てバカミス？」と聞きたくもなりますが、軽快かつユーモア溢れる文章、『具体的な証拠が集まらないうちに推理を進めると大きな過ちをおかすことになる。それが結局は判断を狂わせることになるんだ』が決め台詞の探偵オールド･レッドとその弟ビッグ･レッドといった個性豊かなキャラを始め、いかにもウェスターンなキャラクターたち、捻りの効いたプロット（この展開は読めなんだ）とかなり読み応えのあるシロモノでありましたよ。ミステリとしての面白さはもちろん、またホームズ･パスティーシュ（かなり異色ですが）としても一級品と言えましょう。


つーわけでタイトルでハートをグッと掴まれた人は迷わず読んでみるとよいよいよい。