小説感想 ジョー・ウォルトン「英雄たちの朝」「暗殺のハムレット」「バッキンガムの光芒」



英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)

英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)



1949年、英国とナチス講和条約を結んだ世界。和平に尽力した権力者の館で、議員の不可解な死体が発見された……。壮大な歴史改変エンターテイメント三部作、第一弾登場!


暗殺のハムレット (ファージング?) (創元推理文庫)

暗殺のハムレット (ファージング?) (創元推理文庫)



ナチス講和条約を結び、平和を獲得したイギリス。要人訪英を前にして、ひそかに進行する暗殺計画。ファシスト政治下の日常と非日常を巧みに描く、傑作歴史改変小説第2弾。


バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)

バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)



ファシスト政治が確立したイギリスで、ひそかに進行する巨大な陰謀。歴史の流れに翻弄されていく人々の運命は──。傑作歴史改変エンターテインメント三部作、怒涛の完結編。


久々の更新はジョー・ウォルトンの<ファージング>3部作。あらすじは密林から引用しますた。


1部は歴史改変ものとはいえ、ゆったりとした英国らしい雰囲気を醸しだすコージーミステリらしい展開。議員を殺したのは誰か、という点に注力して話は進み、探偵役であるカーマイケル警部補の調査・推理がたっぷり楽しめ、また<ファージング>の一癖も二癖もある面々のキャラを堪能することができるのですが・・・。ラスト付近、カーマイケルが真相に到達するや否や、この作品はコージーミステリではない、もっとおぞましい何かに突如変貌をとげ、この作品が「歴史改変もの」であることを否が応にでも思い知らされるのであります。これだけでも結構な面白さなのに、この後の2部と3部はこれ以上ってんだからすげぇ。


で、第2部。1部とは打って変わって、今回はサスペンス風味。イギリスとドイツの大物暗殺計画とそれを調査するカーマイケル。暗殺計画に巻き込まれたヒロインの苦悩を盛り込みカタストロフィへ向けて高まる緊張感。というかこの高まる緊張感の濃度が異常。暗殺は成功するの?どうなの?とやきもきしながら読み進め、そして全てが収束するハムレットの舞台でカーマイケルが迎えた結末。あまりにも皮肉としか言いようがないこの展開を経て、ストーリーは完結編の3部へ。


そして第3部。ファシスト政権統治下のイギリスで広まる閉塞感。ある暴動をきっかけに動き出す陰謀。カーマイケルとヒロインを巻き込み、陰謀の行き着く果てにたどり着いた場所。ここに来て「歴史改変もの」である凄みが十全に発揮されており、「もうひとつのありえたかもしれないイギリス」の恐ろしさが堪能できます。自白しない容疑者などいないし、裏切らない友人もいない。何故なら誰にだって守るべきものがあるのだから。ユダヤ人を迫害するのも、それを当たり前と教わって生きてきたのだから。


かなり重いテーマだと思うのですが、根底にあるのは人間賛歌だと思います。へし折れてもまた動き出す人間たちの勇気の歌。ラストがこの展開にしてはちょっと都合良すぎない?という意見など犬にでも食われろ!そんなものはドブにでも捨てちまえ!この素晴らしい3部作に出会えて本当によかった。