マルセル・F・ラントーム「騙し絵」



騙し絵 (創元推理文庫)

騙し絵 (創元推理文庫)


幾度も盗難の危機を乗り越えてきたプイヤンジュ家のダイヤモンド“ケープタウンの星”。銀行の金庫で保管されていたこのダイヤが、令嬢結婚の日に公開されると、警官たちの厳重な監視にもかかわらず、偽物にすり替えられてしまった!誰が?いったいどうやって?第二次大戦末期、本格ミステリ・マニアのフランス人が捕虜収容所で書き上げたという、幻の不可能犯罪ミステリ。



ロマンの塊のよーなおフランス産ヘンテコ本格ミステリ


まずもって作者の経歴がすげぇ。クリスティとかバークリーとかクイーンとかカーとか読みあさっていたミステリマニアで戦争中捕虜となり、収容所で暇だからって執筆したとか何それ。もうこの時点でロマンじゃね?ロマンがダダ漏れじゃね?(その後脱走して地下に潜ってレジスタンス活動に従事とか、もうやっぱロマンダダ漏れやろおい)


という本格ミステリマニアが生み出した本書。一見まっとうな不可能犯罪ものであり、「読者への挑戦」も挿入されていて「なるほど本格やね」と言いたくなるのですが・・・。そこはやはりおフランス産。どこか歪ンでおります。ぶっちゃけやっぱヘンテコ。地の文で「じゃぁこの辺で記述者代わるわ」とか結構やりたい放題だし、またよくよく考えると全体的な流れとして「読者への挑戦」も結構浮き気味。何かとりあえず入れてみた感がひしひしと感じられます。そして恐るべきはこの真相。ファンタジックにもほどがあるというか、「実現性など犬にでも食われろ!」とばかりのロマンを追求しためくるめく一大トリックが炸裂し、もうワシらボンクラな本格ミステリ読みとしては「へへーっ」と頭を垂れて全て受け入れるしかありませぬ。いやもうロマン溢れるっつーか、もうロマンしかない。


とはいえ探偵小説(ロマン・ポリシエ)、すなわちこれロマンから構成されておりますのでもうこれはこれで十分アリでございますよ。というか本格ミステリはこのくらいぶっ飛ンだファンタジックな作品の方が楽しい。


というわけで本格ミステリ者なら一度はお試しあれ