ウィリアム・ブリテン「ストラング先生の謎解き講義」



ストラング先生の謎解き講義 (論創海外ミステリ)

ストラング先生の謎解き講義 (論創海外ミステリ)


オルダーショット高校の老教師にして、素人探偵のストラング先生。生徒にかかった疑いを晴らしたり、卒業生の刑事に協力したり、退屈しのぎに謎を解いたり、はたまた自分が逮捕されてしまったり…。『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』のブリテンが贈る、エラリー・クイーン顔負けの緻密な推理が展開される“名探偵ストラング先生”シリーズ傑作集、全14編。



これは面白かった!


つーか先日読了したクリスピン「列車に御用心」とほぼ同様の構成なのだけど、あちらよりもずっと楽しめたのは一体何故なのだ。やっぱ尺か。尺の問題なのか。それとも作品から感じられるユーモア感の違いなのか。バカ魂なのか!(よしいいからちょっとお前黙れ)


ストラング先生のキャラをはじめとして、バリエーション豊かな事件とシチュエーション、ロジックの切れ、展開の捻りっぷり、全体に漂うユーモア感と満足この上ない短編揃いでしたよ。個人的には「ストラング先生、グラスを盗む」「ストラング先生、証拠のかけらを拾う」「ストラング先生と盗まれたメモ」あたりがお気に入りかな。あとバカ魂を感じることしかできなかった「ストラング先生の熊退治」も捨てがたい(だからお前はちょっと黙れ)


さすが名作「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」のブリテンやで、と唸ることしかできぬワシでありました。これはオススメ。

エドマンド・クリスピン「列車に御用心」



列車に御用心 (論創海外ミステリ)

列車に御用心 (論創海外ミステリ)


人間消失、アリバイ偽装、密室の謎。名探偵フェン教授が難事件に挑む。「クイーンの定員」にも選ばれたロジカルな謎解き輝く傑作短編集。



上質な本格ミステリ短篇集。


というのはよくわかるのだけど、如何せん1つの話が20ページ程度しかないのですげぇ勢いで事件起きてすげぇ勢いで解決してしまうので、味わい深いとか深くないとか話が面白いとか面白くないとかそーゆーのを感じる間もなく無呼吸連打で一気に押し切られた感あった。切れ味良すぎて切れたのがよくわからなかったというか、読了後に「どれも面白かったけど何か特に印象に残らんぞこれ」って思ってしまったよ。綺麗にまとまり過ぎたっつーか。いや高レベルってのはそりゃわかるのだけど、読ンでる間は推理クイズ集みたいな印象が強くってさ・・・


恐らくはちまちま読み進めるのが一番この本を楽しめる方法だと思った次第でありますゆえ、いずれリトライしてみたいところ。とりあえず本格ミステリ野郎は読ンで損はないと思います。思うともさ。

ジュリアン・バーンズ「終わりの感覚」



終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)

終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)


穏やかな引退生活を送る男のもとに、見知らぬ弁護士から手紙が届く。日記と500ポンドをあなたに遺した女性がいると。記憶をたどるうち、その人が学生時代の恋人ベロニカの母親だったことを思い出す。託されたのは、高校時代の親友でケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアンの日記。別れたあとベロニカは、彼の恋人となっていた。だがなぜ、その日記が母親のところに?───ウィットあふれる優美な文章。衝撃的エンディング。記憶と時間をめぐるサスペンスフルな中篇小説。2011年度ブッカー賞受賞作。



ラストシーンには腰が抜けた。


いやマジに。それくらい衝撃的というか「おいちょっと待て」というオチであり変な笑いが出ちまったぜ。話的にはよくある「自分探し」の亜流みたいなものなのですが、まぁ過去ってやつは下手に突っつくと大変な事になってしまうということがよくわかるお話でありました。忘れちまった記憶・・・というよりは若さ故の過ちがもたらす影響ってやつは実にスリリングやな。読了後のオチを踏まえて登場キャラの心情を辿ってみると色々と味わい深すぎるのもまたよし。ブッカー賞の凄みを味わえる作品と言えましょう。


つーかこれある意味バカミ(自粛

E・C・R・ロラック「悪魔と警視庁」



悪魔と警視庁 (創元推理文庫)

悪魔と警視庁 (創元推理文庫)


濃霧に包まれた晩秋のロンドン。帰庁途中のマクドナルド首席警部は、深夜の街路で引ったくりから女性を救った後、車を警視庁に置いて帰宅した。翌日、彼は車の後部座席に、悪魔の装束をまとった刺殺死体を発見する。捜査に乗り出したマクドナルドは、同夜老オペラ歌手の車に、ナイフと『ファウストの劫罰』の楽譜が残されていたことを掴む。英国本格黄金期の傑作、本邦初訳。



英国クラシックミステリの風を感じる(お前はそればっかやな)


というかクラシック本格ミステリ黄金期であるところの1930年台ギリギリの作品であるがゆえのお話という感あった。具体的にはノックス大僧正の十戒を思い出したというか。えらく地味っちゃー地味なのだけど、それだけと切り捨てるのはちょっと勿体無い味わいがある気もします。というかぶっちゃけ本格ミステリっつーよりは警察小説的味わいが強い気がする。とはいえクラシックファン以外にオススメできるかっつーと「むむむ」と言うしかないワシではありますが。


だがクラシックミステリファンなら必須事項な。ワシとの約束だ!

スティーヴン・キング「ビッグ・ドライバー」



ビッグ・ドライバー (文春文庫)

ビッグ・ドライバー (文春文庫)


小さな町での講演会に出た帰り、テスは山道で暴漢に拉致された。暴行の末に殺害されかかるも、何とか生還を果たしたテスは、この傷を癒すには復讐しかないと決意し…表題作と、夫が殺人鬼であったと知った女の恐怖の日々を濃密に描く「素晴らしき結婚生活」を収録。圧倒的筆力で容赦ない恐怖を描き切った最新作品集。



中編2本「ビッグ・ドライバー」「素晴らしき結婚生活」からなる短篇集。どちらもスーパーナチュラルな要素抜きのノワールですがブラックな味わい満載で大変楽しい作品でした。


「ビッグ・ドライバー」・・・レイプされ殺されかけた女性が「ヤラれた以上、この屈辱を晴らすためには殺らねばなるまい」と復讐に血潮を燃やす作品。そしてこの主役を務める女性がまた狂っておりまして大変ステキ。具体的には脳内会議をやってるあたり。一人暮らし長いと独り言が増える(注:ワシがそうです)ものですが、これだけ独り言を極めるとまったく寂しくなンてないね!バイオレンスにつぐバイオレンスであり「わーお」という感想しかでねぇイカすお話であった。


「素晴らしき結婚生活」・・・長らく一緒に過ごしてきた旦那がサイコな連続殺人犯だったと知った奥さんの話。日常が一転して非日常にシフトする、日常の恐怖の描写・・・よりも、正体がバレた旦那の行動やそれに伴う奥さんの行動などがまた良い感じにアレで大変こちらも楽しいお話であった。まぁそりゃ人間、日常をわざわざ崩すような行動はしないわな・・・(´・ω・`)


どちらも暗黒この上ないお話ですが、読み応えと読後感はかなり良いのであまりヘビーな感じはしないかな。むしろさわやかな感ある。暗黒ですが大変楽しいお話ですので本書と同系統の「1922」とあわせてオススメしたいところです。いやー面白かった。キングも未読のブツばかりなので読まにゃならぬな

デュレンマット「失脚/巫女の死」



失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)

失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)


いつもの列車は知らぬ間にスピードを上げ……日常が突如変貌する「トンネル」、自動車のエンストのため鄙びた宿に泊まった男の意外な運命を描く「故障」、粛清の恐怖が支配する会議で閣僚たちが決死の心理戦を繰り広げる「失脚」など、本邦初訳を含む4編を収録。



おお、これはすごいぞ。


4編から成る短篇集なのですが、どれもこれもバリエーションが異なるクセの強い作品ばかりで実にワシのツボをつく内容でありました。日常から突如非日常に変化する不条理的幻想小説の味わいの「トンネル」、登場人物全てが記号で表現される実験小説的手法で粛清の恐怖を描写し安定のオチに到達する「失脚」、ハイテンションで繰り広げられる擬似法廷によって到達するある真実「故障」、ギリシャ神話をモチーフした世界観にて割と適当な託宣を下してた巫女の死の間際に展開されるオイディプス王と愉快な仲間たちの悲喜劇「巫女の死」。全て一筋縄ではいかないお話だけどすげぇ面白くてびっくりですよ。個人的にはとりわけ「故障」がツボ。


1000円とちょいと厚さの割にお高いですが、クオリティがハンパないので値段分以上に楽しめること請け合い。これはオススメですぜ

東野圭吾「真夏の方程式」



真夏の方程式 (文春文庫)

真夏の方程式 (文春文庫)


夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。一方、仕事で訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もう1人の宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。



ガリレオ長編。短編とは打って変わってこちらは真っ当(という言い方が適当かどーかは知らぬが)な本格ミステリとなっております。錯綜する人間関係から生まれるドラマ性とか、こーゆー盛り上げ方はさすが東野圭吾と言わんばかりで話をぐいぐい引っ張りますことよ。湯川せンせが思いのほか子供好きでさらに世話焼きさンということがよく分かる大変いいお話であった。少年・恭平の成長譚とも言えるな。


とはいえ過去の長編「容疑者Xの献身」「聖女の救済」に比べると随分と大人しい印象も。過去作はあからさまな犯人が登場していたのに対し、本書では誰が犯人かは最後まで伏せられてる(多少想像はできるけど)のだけど、真相&トリックのインパクト度合いではちょっと過去作に落ちるかなーという気がします。真相に至るドラマ性とか入り組み具合とかは過去2作よりも本書の方が格段に上だと思うけど。まぁこれは好みの問題かしらね。やるせない中にも一抹の希望をもたせるこのストーリーの運び具合はさすが東野圭吾やで。


というわけで短編とはまったく違う印象の湯川せンせを堪能したい人は迷わず読むがよいよいよい