東野圭吾「ガリレオの苦悩」



ガリレオの苦悩 (文春文庫)

ガリレオの苦悩 (文春文庫)


“悪魔の手”と名のる人物から、警視庁に送りつけられた怪文書。そこには、連続殺人の犯行予告と、帝都大学准教授・湯川学を名指して挑発する文面が記されていた。湯川を標的とする犯人の狙いは何か?常識を超えた恐るべき殺人方法とは?邪悪な犯罪者と天才物理学者の対決を圧倒的スケールで描く、大人気シリーズ第四弾。



バカミスの風を感じる。


一読「よく調べたなーつーかこれバカだなー」という感想しか出てこない、物理トリックを駆使しまくったガリレオ短編集。つーかあまりに極まった極北の物理トリック目白押しの作品ばかりなので真相を見破るとか見破らないとか、正直どうでもよくなってきます。(おい) ワシのよーなボンクラバカミス脳の人間としては、東野せンせの尽きることのないミステリへの情熱に頭を垂れることしかできぬわけですよ。その道の専門知識がないとわかるわけねーよ!というツッコミは置いておけ。東野せンせの極まった本格ミステリへの情熱に恐れおののくが良い。

東川篤哉「私の嫌いな探偵」



私の嫌いな探偵

私の嫌いな探偵


うら若き美貌のビルオーナー、二宮朱美。二十代半ばにして、ビルの最上階に住まい家賃収入で優雅に日々を送っている……はずが、なぜか、気がつけば奇妙なトラブルに振り回されてばかり。それもこれも、階下に入居している「鵜飼杜夫探偵事務所」がいけないのだ!今日もまた、探偵事務所を根底から揺るがす大事件が巻き起こる!!



烏賊川市シリーズ短篇集。いつものよーにかる〜いノリで展開されるスラップスティックなミステリでありますが、根っこの本格魂はしっかりしておりトリックはどれも結構凝ってます。まぁ作品の雰囲気と展開的に考えてバカミスちっくなネタが多めなのは好みが分かれるところだと思うのですが・・・。え?ワシ?ワシはこーゆーの大好きなのでまったく問題ないですよ、ええ。


というわけでさらっと読めてシンプルに「面白かったなー」と思える作品ですのでヘビーな本ばかりではなくたまにはライトな作品もええのではないかな、と思うワシでありましたとさ。いや単純だけど「面白かったなー」って思える作品って結構大事と思うのだぜ

マックス・バリー「機械男」



機械男

機械男


僕は機械しか愛せない。人間は非論理的だ。恋人も友人もいないけれど、でも人間と関係を結ぶなんて非効率で面倒くさいじゃないか。
そんなある日、僕は職場の事故で片脚を失う。そのときひらめいたのだ――エンジニアとしての才能を注ぎ込んで、生身より断然高性能の脚を開発しようと。名づけて〈美脚〉。その出来は素晴らしく、僕は残る片脚も機械化した。
これが僕の未来を開いてくれた――僕に共感を抱いてくれた初めての女の子、ローラとの出会い。恋の成就。会社が与えてくれた大規模な開発チーム。思いのままに研究を進められる自由。だが僕は知らなかった、すべての背後に社の軍需部門の思惑があったことを。やがて暴走をはじめる開発チーム。姿をあらわす〈機械化兵士〉開発計画。それは僕の彼女、ローラまでも巻き込んでゆく。
大地を揺るがして疾走し、轟音とともに跳躍する機械の脚。それを武器に、理系オタクは恋人のために死地に赴く。ガジェットとイノヴェーションの世紀を切り裂くギーク・サスペンス。



こいつぁキてるぜ!


ええと、上記あらすじで一読瞭然だと思うのですが、まぁつまりは「きが くるっとる」という話なわけであり大変ワシ好みの作品だったでございますよ。「あれ?機械の身体の方が便利じゃね?生身要らなくね?」という改造人間の悲哀などドブにでも捨てちまえとばかりのこのステキ思考で最初から最後まで突っ走る暴走特急、それが本書であります。まぁ石川賢クラスタ的には「理系オタク版極道兵器」と言えばわかりやすいかな。





この画像で本書の半分くらいの魅力は伝えられるとアタイ信じてる。そして「あれ?機械の身体って結構便利じゃね?」と会社と周囲の人間が気づいてしまい、こやつらが我先に身体を機械に置き換えたがり、そして恋人ローラは機械の身体フェチでありいいぞもっとやれというスタンスであり、ストーリーは「狂気の国では正気こそが異常」と言わンばかりのもはやファンタジーと言っていいほどの混沌っぷりを見せ始めます。終盤の展開はカオス極まりなく普通に「ええええええ」と声出たよ。いや流れ的には何も不自然ではないけど。つーかむしろ望む展開だったけど。この展開は萌える。いや燃える。いやいややっぱ萌える。


冒頭の「子供のころ、ぼくは列車になりたかった」という文章が本書の全てである大変ボンクラな素晴らしい作品であり、この世に生きとし生けるもの全てのボンクラ愛好家はマストと言ってよい本書。いいからワシを信じて黙って読むがよいよいよい。いやもうすげぇぜ。

北山猛邦「踊るジョーカー」




類稀な推理力を持つ友人の音野順のため、推理作家の白瀬白夜は仕事場の一角に探偵事務所を開設する。しかし当の音野は放っておくと暗いところへ暗いところへと逃げ込んでしまう、世界一気弱な名探偵だった。依頼人から持ち込まれた事件を解決するため、音野は白瀬に無理矢理引っ張り出され、おそるおそる事件現場に向かう。新世代ミステリの旗手が贈るユーモア・ミステリ第一弾。



あざとい。


とにかく探偵役の音野順の小動物っぷりがハンパなく、異様なまでの萌えキャラになっておりもう「あざとい・・・あざとい・・・!」と言いながら読むことしかできぬワシであった。もうこのシリーズ、音野順の日常だけ描写してればええンじゃないかな。(真顔


というのが作品の半分くらいの魅力。残りの半分は本格ミステリでできておりますことよ。(物理)トリックメーカーの北山氏らしいアイデアが盛りだくさンで、収録作どれもバリエーション豊かなネタばかりでワシはこれを大いに楽しく読ンだものですよ。ちょい無茶なシチュエーションとちょい無茶なトリック上等。むしろ歓迎。


まぁ細かいことは置いといて、皆も音野順の萌えキャラっぷりに悶絶してればええンじゃないかな。というか悶絶すればいい。

西崎憲「世界の果ての庭」




米国人の学者と出会った女性作家の独白。若返る病を患い、家出から帰ってきた母。本所深川に出没する謎の辻斬り。果てのない階段がある巨大な“駅”をさまよ彷徨う脱走兵。光という影と、影という光で造る、理想の庭。──繊細で美しい物語の断片が創る、庭園のごとき小説世界。翻訳家・アンソロジストとしても知られる才人の、第14回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。



いくつかの話が並行して進む、55篇から成るショートストーリー集。・・・なのですが、ものすごーく不思議な読み心地がする本でした。パズルのピースが当てはまりそうで当てはまらないというか。断片が重なるよーでまったく重なってないというか。この読み心地は読まれればわかると思うし、またこの内容が本書のキモではなかろうかと思いますので具体的にどの辺に引っかかったかは伏せておきます。皆も読ンでワシと同様の思いをすればいいさ。


お話的にはどれも雰囲気良くて、とても美しいものばかりでした。ワシとしてはどれもツボに入ったよ。さらっと読める上質のファンタジーだと思いますし、また再読して出てくる深みもある作品だと思いますので強くオススメしたいものです

ジャン・ヴォートラン「パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない」



パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない (ロマン・ノワールシリーズ)

パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない (ロマン・ノワールシリーズ)


パリ効外の団地で、結婚式をあげたばかりの花嫁が射殺される。純白のウエディングトレスの胸を真っ赤に染めた花嫁が握りしめていたのは一枚の紙切れ。そこにはこう書かれてあった。「ネエちゃん、おまえの命はもらったぜ」。シャポー刑事はその下に記された署名を見て愕然とする。ビリー・ズ・キック。それは彼が娘のために作った「おはなし」の主人公ではないか。続けてまた一人、女性が殺される。そして死体のそばにはビリー・ズ・キックの文字が・・・。スーパー刑事を夢見るシャポー、売春をするその妻、覗き魔の少女、精神分裂病の元教師。息のつまるような団地生活を呪う住人たちは、動機なき連続殺人に興奮するが、やがて事件は驚くべき展開を見せはじめ、衝撃的な結末へ向かって突き進んでゆく。



ゴッド。いわゆるバカミス。というかまたフランス産かよ!ほンとフランスミステリはヘンテコな作品しかねーな!(満面の笑みで


ええと、あらすじ読む限りではメタ的な展開をするよーにも読めますが、本書はまったくもってそンなことはありませンのでごあんしんください。というかそンな高度なテクニックは何一つ使われてねぇし。でも作者がノリノリで書いたかっつーと多分相当冷静にやってると思われるけど。


内容の傾向としては一応ノワール・・・いや違うな、ええと団地を中心とした群集劇・・・いやこれも違うな。ええと、何だろこれ。混沌。そう混沌だな。とにかく登場キャラがほぼ狂っておりその狂ったキャラたちがどいつもこいつも狂った行動しかしないので、もうそりゃ話はカオスそのものですよ。エントロピー増大ですよ。ブレーキが壊れたダンプカーですよ。暴走特急ですよ。そりゃ話の大筋は上のあらすじで合ってるし、登場するキャラクターたちがみせる悲哀みたいなのもあるのだけど、もうそーゆーのは全てこの作品が生み出す狂気という名のストリームに派手に巻き込まれてしまい全てが渾然一体、もうカオス極まりない仕上がりになっておるわけです。ワシのよーなボンクラは最終的にはもういい笑顔を浮かべて「狂ってるなぁ」と言うことしかできぬものでありました。いやもういいもの読ンだ。


ビリー・ズ・キックとは一体何者?という謎もさることながら、ビリーを中心としたその他登場キャラがおりなすユーモア溢れる悲哀感も結構な読みどころであり、ほンとよくできた作品だと思いますのでワシとしてはこれを大いにオススメしたいところです。というわけで当ブログを見てくれてるよーな方はきっと気に入ると思われますので是非に。


ちなみに文庫になってないし絶版なので古本でしか入手できないってのがちと辛いところか。ぐぬぬ・・・

霞流一「落日のコンドル」




空中殺法の謎を解け!
驚愕トリックと超絶ドンデン返しのパズル・ロワイヤル
そして誰もいなくなるのか?
巨大クルーズ船で繰り広げられる殺し屋たちの本格ミステリ刃法帖


プロの暗殺者[影ジェント]瀬見塚は豪華客船のオーナーを暗殺するため洋上の船に潜入した。船員はみな薬物で眠らせたはずだったが、なぜか暗殺チームの一人が殺される。しかも船は自動操縦で数時間後に座礁の危機。暗殺任務に加え、どこからともなく飛来したコンドル三兄弟の襲撃をかわし、仲間殺しの犯人を見つけなければならない。敵味方入り乱れて推理が交錯し、本格パズル・ロワイヤルの幕が開く!



「夕陽はかえる」に続く「影ジェント」瀬見塚シリーズ第2弾。今回は巨大クルーズ船上で展開される不可能犯罪の謎解きという本格ミステリの味わいと、敵の殺し屋「コンドル三兄弟」の空中殺法の謎解きをメインとする忍法帳的B級アクションの味わいが渾然一体となりカオス極まりない仕上がりとなっておりました。というか不可能犯罪発覚後の(捨て)トリック乱れ打ちからの殺し屋たちの自白の輪舞などのくだりはこの狂った設定とシチュエーションならではの展開で圧巻の一言。さすがは霞流一やで。というかバカミスキングの名(最近はさほどでもないのかな)が先行してるイメージありますけど、霞流一は推理パートがすげぇしっかりしてまして今回も得意の消去推理での真相解明にはただただひれ伏すしかありませんでしたぜ。炸裂する大ネタもばっちり決まってて大満足の作品でございました。


やはり霞流一は素晴らしい。